女の子ってズルイとたまに思う。

日に日に綺麗になっていく彼の人を思い浮かべ、少年はそれを掻き消すかのように、ちゃぷん、と湯の中へ顔を浸した。




* オンセンにドッキドキ!2 *




「あ、小狼君」

振り向いたその人に、一瞬心臓が高鳴ったのを少年は気付かぬ振りが出来なかった。

「ね、コレすごくおいしいの」

そう言うサクラが持っているのは、ガラスで出来た瓶だった。その中には、薄桃色をした液体が半分程入っている。
何だろう、と少年は不思議に思った。

「お風呂上がりには『牛乳』を飲むのが習わしなんですって。モコちゃんが教えてくれたの」
「『牛乳』って…あの牛乳ですか?」
「うん。これは『いちご牛乳』っていうらしいんだけど…」

甘くてとってもおいしいのよ、とサクラは笑う。
以前訪れた国で飲んだ事のあるその飲み物は、少年もサクラも随分気に入っていた。そういえば黒鋼さんはこれを苦手としていたな、なんて事を思い出す。

「小狼君も一緒に飲まない?」

そう言われ、少年は一つ返事で了解した。
そしてサクラのとは違い、『フルーツ牛乳』と書いてあるそれを購入し、二人は庭へと降り立っていった。


* * *


ひんやりとした空気が辺りを埋め尽くしている。
風呂上がりで火照った身体には、その空気がとても心地よかった。二人はしばしの間無言で涼み、牛乳を喉に通していた。

「温泉…どうだった?」

と、そこでサクラが話を切り出した。
下駄を履いた足をぶらつかせ、こちらを向いてくる。

「楽しかったですよ。あんなに広いお風呂なんて入った事無かったですから」

ファイさんなんか泳いで黒鋼さんに怒られていましたよと、そうも付け加えると、目に浮かぶようだとサクラは笑った。
そして次の瞬間心配気な顔になり、

「……疲れ、ちゃんと取れた?」
「え?」
「小狼君、いっつも無茶ばかりして怪我とかしてるし…。こういう時くらいしっかり休んで欲しくて……だから、あの、」

風呂上がりという理由だけでは説明出来ない程顔を赤くして、もじもじと恥ずかしそうにサクラは俯く。
慣れない浴衣を着ているためか少々肌蹴て白い胸元が見えそうだったり、まだ乾ききっていない髪が白い首筋に張り付いてたり、いつもだったらそんな気にしないような所に、少年は自然と目が行ってしまった。

ああ、本当にこういう時の女の子はズルイ。
そんな長い時間離れていたわけではないのに、一瞬でその色を変える。
それが自分にとってどれだけの衝撃があるのかなんて、ちっとも分かっていないのだから。

「小狼君?」

心配そうに見つめてくる少女に、少年は笑顔を返す。考えている事を悟られないように必死に。
そしてそろそろ夕飯の時間だと、少女の手を引いて二人は部屋へと戻っていった。


* * *


その夜。
サクラとモコナの二人部屋に布団を敷き、二人が眠りにつくまで付き添っていたファイにサクラは、

「……ファイさん」
「ん?なぁにサクラちゃん」

そう呼びかけたサクラは、既に半分夢の中だ。
とろりとろりと落ちてくる瞼はそのままに、ぽつり、とサクラは言葉を零す。

「…男の子って、ズルイ……」
「え?」
「あんな…ちょっとの間に、あんなに……」

後半部分は曖昧で、その後すぐに聞こえてきた寝息にファイはくすりと笑った。
その先は言われなくてもすぐに分かった。
温泉から帰って来た二人の様子が、いつもと違う事には気付いていた。そして、その理由も何となく想像はしていたのだ。
そっと少女の頭に手を当てる。柔らかい茶の髪をやんわりと撫で、

「でもね…それは男の子も同じだと思うよ?」

結局はどっちもどっちだという事を、まだこの幼い少女と少年には分からないのだろうけれど。




オヤスミ、と呟いて、そっと部屋を後にした。






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