パァン!と乾いた音が響く。
正方形に囲まれた白いラインの中で争う二人が接近する度に、興奮で背筋が震えた。
硬く握り締めた拳には汗が浮かび、しかしそんな事には一切気付く余裕もなく、ただじっと黒装束を纏う二人を見ていた。いや、正確にはその一方だけを見ていた。
試合は既に延長戦に入っている。3年生だという相手との体格差は然程無い。しかし素人目から見ても、国体出場経験があるという相手に、その動きは一つも劣ってはいなかった。
俊敏なフットワークで相手の懐に飛び込んでいく度に、会場中は突如現れたこの新人に戸惑いを隠せなかった。地区予選決勝とはいえ、延長にまで持ち込むとはきっと誰しも予想しなかっただろう。そう思うと自然と口元が緩んだが、今はそれどころではない。
3人の審判に囲まれしばらく対峙していた二人は、弾かれたかのように同時に竹刀を振りかざした。咆哮を上げ、体と体がぶつかり合う。
そして次の瞬間、審判達が一斉に旗を揚げた。色は赤と赤と、そして赤。勝利を表すその色に、会場中は割れんばかりの大歓声で埋め尽くされた。
一礼し、その勝者が面を取る。現れた精悍な顔立ちの青年に、今度は会場中、黄色い声で埋め尽くされたのだった。
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「もーっ!おめでとう黒たんほんっとおめでとう良かったねぇすごかったねぇ!オレ剣道の試合って初めて見たけどすごいねぇ!あんなに興奮したのは久しぶりだよ〜!なんていうの?まさに食うか食われるかの真剣勝負!って感じ?もーずーっとドキドキしてて心臓飛び出るかと思った!相手の人もすごかったよね!こう、オーラが違ったよ他の人と!さすが国体に出場しただけの事はあるよね〜!でもでも、そんな人に勝っちゃったんだから黒たんはもっともーーーーーっっとすごいよね!」
ね!と語尾全てにエクスクラメーションマークを付け弾丸のように話すファイの言葉は、少年にはたった3行程しか聞き取れなかった。
続く