ファイ・D・フローライトの朝は、まずベランダを飛び降りる事から始まる。
飛び降りる、というのは些か語弊があるので言い換えよう。彼は毎朝目覚めると、制服を着、そのままベランダへ出る。そして雨樋を伝って真下へと降りていくのだ。
その真下とは、ここ最近彼が夢中になっている『研究対象』の、とある同級生の部屋だ。
「おっじゃまっしまーす♪」
今日も今日とて階下のベランダへ、トン、と華麗に着地した彼は、何の躊躇も遠慮も一切無く、窓を開け室内へ入っていった。その際、何故ベランダの窓が開いているのか、という疑問は無粋らしい。彼曰く。
さて、寮とはいえ不法侵入甚だしい彼は、真っ先にベッドへ行くと、ぼすり、と大きな音を立てそこに寝転がった。そして次の瞬間には寝息を立て始める。
すやすやと、幸せそうに。
* * *
黒鋼の朝は、まずランニングをする事から始まる。
彼は毎朝目覚めると、ジャージを羽織り寮を出る。コースは寮→商店街→バナナワニ園→湖と決まっていて、時折、戻ってくる際にパン屋のおばさんから焼きたてのパンを貰う事がある。
入学時から一日も欠かさずランニングを続けている彼は、その見た目に反する礼儀正しさも相まって、『爽やか好青年』として商店街のアイドルと化しているのだが―――勿論、そんな事は彼は全く知らない。
「……」
さて、今日も今日とてランニングを終え寮へ戻って来た彼は、自室の前で立ち止まった。しかしそれも一瞬で、次にはガチャリとドアを開ける。
飛び込んできた光景は、予想通りのものだった。部屋の隅でキラリと光る金の糸。その下から聞こえるのは、明らかに人間の吐息だ。
扉を閉める。侵入経路であろう、ベランダの窓がきっちりと閉められている事を確認し、彼は口を開いた。
金糸を掻き分け、白い貝殻のような耳に手を伸ばし、同時に足も振り上げる。そして次の瞬間。
「起 ・ き ・ ろ !!!!」
「ぅひゃあっ!?」
怒号と大きな物音と共に、こうして二人の朝は始まるのだった。
続く