* リーマン×女子高生 ―そしてプロポーズ(仮)― *
そっと手の平に置かれた。
今まで聞いたことのないような、甘く優しい声と共に。
「今から部屋探すなんて面倒くせーだろ。俺んトコ来いよ」
「え―――」
「だから…」
男はそこで一度言葉を切り、ガリガリと頭をかいた。それが照れ隠しなのだと言うことは、十分すぎる程分かっているのだけれども。でも。
それよりも今、自分の手の中にある物がとても信じられなくて。
だからそのなんだと、男は前置きをした後に、
「――――――一緒に、住まねーかってことだ」
そう、言った。
怒りとは全く違う理由で深く刻まれた眉間の皺と、赤く染まる目元と、そして手の中で鈍く光る銀の鍵。
『同棲』、という言葉はすぐには浮かんで来なかったけれど、その時自分の胸に去来したものは。
「っオイ、どうした!?」
男が慌てる。
何をそんなに慌てているのだろうと思ったが、次に男がその指で自分の目元を拭ってきたものだから、今自分は泣いているのだと分かった。
戸惑いがちに男の腕が回される。それに素直に身を任せて。
「泣くなよ」
「…っ、ごめ…だって」
「…お前に泣かれると、どうしていいか分かんねんだよ」
ぎゅう、と力強く抱き締められる。
まるで迷い子のようなその物言いに、おかしくなって笑ってしまった。
そして自分も男の背に腕を回す。手の中で銀の感触を確かめて、それに再び涙を流して。
「うれしい…」
そしてするりと口から漏れた言葉に、驚いた。今までの自分からは考えられないようなその行動。
だって、言葉というのは何度も何度も頭の中で咀嚼して、やっとの思いで外へ出すのだ。時にはそのまま飲み込んでしまう事もあった。そうして自分は生きてきたのに。
確実にこの男の影響だ。己の感情を嘘偽りなく口に出すこの男の。それが全く不快だと思わない自分にも、正直驚いているのだけれど。
男と目を合わす。その紅い瞳に自分の姿が映っているのを認め、ああと思った。
「ありがとう…」
そして笑う。
いつものように上手くは笑えなかったけど、きっととても不揃いな顔をしているのだろうけれど、それでもそれが好きだと男は言ってくれたので。
降りてくる唇を受け止めながらもう一度涙を流す。
この時初めて、涙は嬉しくても出るものなのだという事を、知った。
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