「黒様がんばってぇー」
「黒鋼さん、避けてくださいねっ!」
「ご、ごめんなさいぃ〜」
「黒鋼ファイトォー!!」

「てめぇら全員覚えてろよぉーー!!!」

とある一軒家で、どこぞのザコキャラが去り際に吐くような台詞が聞こえた。




* セツブンにドッキドキ! *




侑子が現れたのは、夕食前の事だった。
いつも通りにモコナの額飾りからホログラムのように出てきた彼女は、開口一番こう言った。

「コレ、あげるからやりなさい」

その言葉と共にモコナの口から出てきたのは、袋に詰められた大量の豆。それに顔中を真っ赤に染め、怒りの形相をした人のようなお面だった。
何が何やら分からない一行に侑子は、

「説明はモコナと黒鋼に任せるわ。じゃ、後はガンバッテ」

と、対価としてファイお手製の牛ホホ肉の赤ワイン煮込みを転送させ、画面から消えていった。


* * *


節分。
一般的に、「鬼は外、福は内」といいながら煎った大豆をまく行事である。
とりあえず、何で俺が…と文句を言う黒鋼から説明を受けた一行は、大量の豆を前にして腕を組んだ。

「これを投げるの?」
「黒鋼さんの話からすると、『鬼』に対して投げるそうですね」
「『鬼』って、あの『鬼児』の事?」
「ここは桜都国じゃないから、その『鬼児』とは違うんじゃないかなー」

と、一行が話していると、白くて丸い謎の生物であるモコナが飛び上がって言った。

「あのねあのね!侑子の国では、『鬼』は一家の大黒柱がやるんだって!!」

そして、冒頭に戻る。


* * *


赤い鬼のお面を無理矢理付けさせられた黒鋼は、家中を逃げまくっていた。
4対1。いくら黒鋼が強いと言ってもフェアじゃないにも程があるだろう。前から後ろから、右から左から飛んでくる豆を易々と避けているのはさすがだが、如何せん数が多すぎる。
しかも、小狼とサクラは遠慮して投げているが…、

「うりゃー鬼は外ーー!!」
「福は内ぃ〜!!」

明らかに、もう誰がどう見ても明らかに約2名?は心の底から楽しんでやっている。しかも本気で。
モコナはともかく、ファイは見た目を裏切って戦闘のプロだ。それはもうありとあらゆる手を使って攻撃を仕掛けてくる。
初めは嫌々だった黒鋼も、この強い豆使いの攻撃にだんだんと本気になってきた。
部屋の隅では、既に小狼とサクラは投げる手を止め、2人と1匹の攻防を見守っている。

「黒鋼、覚悟ぉ〜!!」
「へっお前の攻撃は単純だぜ白まんじゅう!!」
「あっ!」
「あ?何だ…うおっ―――!?」

バチィッッ!!
と、勢いの良い音がし、黒鋼の身体が斜めに倒れた。あわや床に直撃か!?というところでなんとか身体を持ち直した黒鋼に、

「あっははー。お父さん油断だゆだんー」
「…てっめぇ……」
「んーまだやるー?」
「ったりめぇだ!!このやろ、」

「待ちなさい!!」

突然聞こえてきた声に、一同は飛び上がった。
そこにはあの魔女がいた。侑子はかなり激しい戦闘の後が色濃く残る部屋を見渡すと、ため息を一つ吐き、

「全く、こうなってるんじゃないかと思って心配で見に来れば…。モコナ、ちゃんと説明したの?」
「うん、ちゃんとしたよ!」
「……まぁ、いいわ。それよりアナタたち、豆はもう食べた?」
「え、豆?」
「その様子だとまだみたいね」
「豆がどうしたんですか?」
「アラ、モコナ言わなかった?―――節分では、自分の年の数だけ豆を食べるのよ」

にっこり、と音がするような笑みで魔女は言い放つ。
その一瞬、背後にいる魔術師の空気が凍ったのを、黒鋼は見逃さなかった。


* * *


その後、侑子がいなくなった部屋で。

「お豆…食べるの?」
「はい、自分の年の数だけだそうです」
「私、記憶がないから…。いくつなんだろう?」
「姫はおれと同い年だから、1×個ですよ」
「そうなんだ!」
「はい」
「じ、じゃあ一緒に食べよ」
「は、はい!」
「らぶらぶだ〜」
「モコナ!」
「モコちゃん!」

小狼とサクラとモコナが、そんな和やかな会話を繰り広げている脇では、

「……おい、てめぇはいくつ食べんだよ」
「え?ええーとぉ……黒たんは?」
「俺ぁ2×」
「へぇー意外と若かったんだね黒ぽん!」
「うるせぇよ。んで?」
「な、なにー?」
「だから、てめぇはいくつなんだよ?」
「それわぁー……」
「それは?」
「…………………………………………………………ナイショー」
「……」
「じゃ、ダメ?」

「……上等だこのやろぉおーーーー!!!!!」

きゃー黒様がいじめるーー!!!と、ファイの悲痛な叫びがこだまするのは、このすぐ後の事である。
そこには、さっきのお返しだ、と言わんばかりにファイに無理矢理大量の豆を食べさせようとしている黒鋼の姿があったという。






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